あの事件とは・・・
『ダイヤモンド・プリンセス号火災事件』です。
当然のことながら、大濠キング・ファーザーはこの製造には携わっていませんでした。
会社の仲間たちの怪我もありませんでした。
しかし、大濠キングが、この事件について電話をしてみると・・・
電話の向こうで泣いていました。
黙ったまま・・・
鼻を啜る・・・その音でわかりました。
大濠キングは掛ける言葉が見つからないまま、電話を切ったのを憶えています。
そして、数日経過し駅まで迎えに行きました。
久しぶりの再会でしたが、元気がないのはすぐにわかりました。
車窓から焼けて、ゴミのようになった『ダイヤモンド・プリンセス号』を見ながら
大濠キング・ファーザーは息子の目の前で、隠すことなく涙を流していました。
世界に名だたる、三菱重工業の造船技術・・・
一昔前に比べて、その隆盛ぶりは明らかに低下していました。
技術ではまだまだ、世界一です。
しかし、中国・韓国の人件費からくるその低価格に対抗できなくなっていたのです。
日本が、長崎が、会社が、そして自分達が・・・
世界を相手に技術の向上に邁進し、それによって豊かな生活を得ることができました。
でも、その代償として製造価格は上昇し不景気な市場から締め出されてしまいました。
皮肉なものです。
『高品質で高価格』よりも・・・
『それなりで低価格』なモノが受け入れられるのです。
丁度、戦後の日本が市場に対して行ってきたことを
そのまま、再現されてしまったのです。
大濠キング・ファーザーには、涙の理由を聞いたわけではありませんが・・・
悔しかったんでしょう。
それからしばらく経ち、年末となりました。
所要があり、大濠キング・ファーザーと2人で会社に行く事になりました。
会社の敷地に入ると、あちこち走り回りました。
聞いた分けでもないのに・・・
大濠キング・ファーザー 『いまここで、この作業をやっているんだ。』
『ここの部分は、世界最高の部品で・・・』
誇らしげに、説明してくれました。
涙を流していた、大濠キング・ファーザーは・・・
もう、いませんでした。
自分の仕事に自信を持ち
自分の仕事を誇りに思い
自分の仲間を信頼している
働く男がそこにいました。
それまで父親に対して、感謝の気持ちはあるものの尊敬の念はなかったのですが
正直、尊敬というか・・・
うらやましく思いました。
それからです。
仕事とは?
モノとは?
と、考えるようになったのは・・・
次回は、『はたらく』です。